両眼微笑
両眼微笑

 三十世 水無月

 葡萄の蔓緑なり

 ガラス窓に見知らぬ白髪の主

 断じて 吾にあらず





 レジに立つ母親のエプロンの紐をほどいては遊びをせがんでいた息子が30歳になる。
僕らの足跡を確認するように時間をさかのぼるようにしてその足取りを訪ね歩いているらしい。
同級生は家を建て、子どもまでいるのに息子はいまだに旅の途上だ。
まあ、目、耳を澄ましてじっくりいくのは、こんな時代にあっては、大いに善い事と思っている。
それに、僕らが見逃したものも見つけたりするから、なおさらとも思っている。
 草野心平の詩*「冬眠を終えて出てきた蛙」のように「両眼微笑」で帰ってくるのを楽しみに待とう。

                    30年目の芒種の日
 *草野心平の詩で題名の「冬眠を終えて出てきた蛙」のほうが本文「両眼微笑」より長い傑作な詩。
  (冬眠~「●」という詩も草野心平) 


 八百屋は30年。
 その当時のノートが出てきた。


『幾日もシトシトと雨の日が続いていました

 開店の日まで指折り数えて、毎日毎日

 空を仰いでは、雨降りをうらんだものでした

 店の改装はほぼ終わって、音楽にあわせて最後の仕上げを

 友人たちがしてくれている

 そのボブマーリーの歌声が
 
 これから始まるシーンをカウントダウンして  

 僕たちをブルブルふるわせたものだ

 ゆっくり幕が上がる

 僕たちの熱気は、息は

 重たそうな空を

 少しづつ少しづつ動かしていった

 開店の日

 空は文句なしの快晴

 棒立ちしている僕たち  

 ポンと背中をたたかれた

 仲間たちは音楽会の喝采のように

 手をうち、口笛をならした

 さあー

 音楽だ

 踊りなさい
 
 叫びなさい

 ここは地べたにはいつくばる虫たちの

 アスファルトをつき破って咲く雑草たちの

 ミュージカルのステージ

 トマトは微笑み

 大根は踊っているよ

 僕たちは陽気に笛を吹き太鼓を叩いているよ

 さあー

 いらっしゃい、いらっしゃい 』 
 ・・・・                          

あれから30年。そう、人生などあっという間だ。
草野心平の蛙のようにどこまでも「両眼微笑」でありたいね。



ここで暮らす楽しみ①

家の近くに馴染みのお店。
小さい時からいるおばちゃん、おじちゃん。
自分の家族に食べさせるみたいに美味しいものを探してきてくれる。
うそついたり、ごまかしたりしない。
好きなものをよく知っていて、必ず取っておいてくれる。
遠くのお店で売ってる評判のスウィートなんかより全然美味しい。
悲しい時には黙ってりんごをポケットにそっと入れてくれたおばちゃん。
通いなれた坂道の右手に緑の葉陰にそのお店はある。
30年つづいている。
僕らの生まれる前から変わらずあったのだ。

「いらっしゃっい」

とおじちゃん
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by hidesannno | 2012-03-04 15:47

随筆と詩歌
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