<   2012年 10月 ( 1 )   > この月の画像一覧
夢を編むその4
夢を編む その4
 
         やさしい革命 二

                                      高橋秀夫


 厳しい暑さが続いた夏も通り過ぎ、ガラス窓の葉陰も一つ二つと落ち,黄金色の稲穂が秋日を待っている。
 その葉っぱに変わって、へちまの実がのんびり軒先にぶらさがっている。
そして、何より嬉しいのは星のカタチのるこう草が咲き始めたことです。
子供の小指ほどの赤い花で夏の終わりと秋の初めに咲きます。
夏、小さなはしごのような葉を伸ばし、夏の大きな葉に隠れるように 蔓は空をめざす。
まるで風から季節を耳打ちされたように細いつるに蕾をはらみ、夏の終わりを待って、
秋になると花を付ける。
赤い星のカタチの花、朝ひらいて、昼には閉じてしまう。
一日草だから小さなひとつの花は短く咲いて終わる。決して一斉に咲かない。
土の妖精がつるのはしごを上るようにひとつふたつと息をふきかけられたように咲きます。
 その様をながめていると夏の陽ざしを和らげてくれたぶどうの葉やへちま、冬瓜の葉が枯れて落ちても少しもさびしくならないし、どこまでも高い空に向かって咲く花は気持ちのいい心をいっぱいにしてくれる真紅の花なのです。

 花が僕たちに問う。

「いつのころからあなたたちはそんなにせわしなく、いそがしくまいにちをおくるようになったのですか、と。」



 るこう草が咲いた
 
 小さな緑色のはしごをお供にして

 星のカタチをした赤い花が咲いた

 いちじるしい赤 深深と赤い

 イノチの花

 るこう草が咲いた

 ぼくのこころにるこう草が咲いた

 あなたのこころにるこう草が咲いた

 ぼくの心が登る

 てんとう虫と登る

 あなたを登る

 あなたと登る
  
 星の花束を抱えトコトコ登る



 花の問いに答えを探る。

 これまで、社会は人々に何を求めたのだろうか。
そして、人々は何を享受しえたのだろうか。
 ぼくの少年時代をふりかえってみよう。

昭和30年代。
「もはや戦後は終わった」と宣言され、めまぐるしい復活を遂げた日本の姿がそこにあった。
 人々の暮らしの様が急カーブを描いて変化した時であった。
変化は喪失と創造の上にあり、ひとつは近代化という破壊であったのかもしれない。
 その選択は激しく働きずくめる庶民の意思の現われと言われた。はたしてそうなのであろうか。
決してそうではないことは。歴史の襞に残る夥しい抵抗の痕跡が物語るが、民主主義の多数決は文字どうり喪失と創造、現実と真実で仕切られていった。

 電気洗濯機のうずまきを覗きこみ。テレビに力道山の反撃が写った時。
母は絶句し、父はひざに握りこぶしを作った。
家族の目は輝き、家はすみずみまで明るくなっていった。
父は「セイジ、ケイザイ」を語り、母は歌をおぼえた。
兄はバイクに乗り、ポマードをつけ、くわえたばこで格好つけ。
姉は赤い靴をはき、花柄のスカーフをして町に出かけた。
明かるい所にひとは集まった。
薄暗い部屋からかがやくネオンへと、羽虫のように。
 そんな現象はいたるところで起こっていたのでしょう。
そして、そのスピードは疾風のように。

 ひとり遊びに興じるぼくは指をナイフで切ってから保育所に預けられた。
中途入所のため気おくれ、近所の女の子に手を引かれ通った。そのことで男子から「男と女のマーメー人」とからかわれ、ついには女の子の手をふりきって保育所から逃げ出してきてしまった。
それから、小学校にあがるまで親戚にあずけられることになってしまう。
知らない町と知らない人。親戚の家では近くを流れる川を見に行くほかは家にとじこもってばかりであった。大人のお姉さんふたりとおばさんといる時間が多く。甘いお化粧の匂う部屋でさらにひとり遊びと無口な少年になっていった。
 はっきり覚えているのは一年して家に帰ってきた時、父をおじさんと呼んだことだ。
また、大人のおねえさんといつも一緒だったせいか妙にマセテ帰ってきたようでもあった。
地元の友だちとの一年のブランクは相当で、戻ってきてからメンチ、ベーゴマ、くぎさし、うまのりの技の体得には人一倍必死であった。

 電信柱が町で一番高かった時代のこと。

 空き地に積まれていた大きなマンホールは道の下に埋め込まれ、
水溜りのじゃりみちはアスファァルトになり、
エックス山は団地になり、
首つり山は公園になった。
 人々の暮らしの様が変るのにさほど時間はかからなかった。暮らしの道具は電化となり、テレビに映る外国、ステキな休日、麗しい男と女の物語・・どこまでも人々を魅了して止まなかった。
 冷蔵庫からミルクをそそぎ、飛び出すパンにハムエッグとコーヒー。ダンスホールにスカートが舞い、兄の部屋でレコードが響く。

 より早く、より高く、より美しく。

三角形のピラミット。中流になったと下を覗き、見上げては競ってよじ登る。
その先にあるという幸せと豊かな日々をめざし古尽くされたものを捨て、輝く明日を信じた。

 起きる思えば寝るもいや。
母の口癖だった。
家族のために働いて、働きづくめてぼくらを育てた。
戦争で肉親を失い、兄弟とも別れた。だから、平和に暮そうと働いた。
父よ、母よ。
あなたたちから僕は生まれた。それだけで十分尊い気持ちでいっぱいです。
ですから、もう働かなくてもいい。
そう思った時にはもうあなたたちはいない。
 家を明るく、暮らしを楽にしてきたあなたたちのささやかな願いが原子力の時代を作ったのではありません。
 近代科学の装置に囲まれた現代に生きる僕たちが慎重に注意深く考え直していけばきっと、まだ間に合うかもしれませんから。
 どうか、悲しまないでください。

 何をどれほど失ったかもわからないまま新しきものをポケットに詰め込んで豊饒を願ったのは歴史を刻んだ人間の性です。
 素手が鍬となり、こぶしがピストルになった人間の性ですから。
そろそろ、あなたたちが生まれた時代のふり捨てたココロに学ぶべき時ですから。
 時は、 まっすぐに突き進んでいるのではなく、輪のようにゆっくりとめぐるものであると多くの人が気づき始めている。、また、多くの人が 慎重に、注意深く暮らし始めようとしていますから。
 どうか、心配しないでください。

 
 土に集う

 月に深く

 朝露かがやき

 いつもの

 長ぐつの音

 風すこし



 注意深く、想像力をもって、愛おしく人を思い。
 木々を愛で、風を受け、水の流れをさわらず、雨をうけ、陽ざしを待ちましょう。
 ピストルになったわが手を素手にもどし、その手であなたの手をとって出かけましょう。
 おしゃべりなくちびるに静寂を呼び、やさしく接吻しましょう。
 変ること、変えることは本当は簡単なこと。
 さあー
 たいこをならし、こころに音楽を響かせましょう。


                             やさしい革命二  2012.10.18.
                              高橋秀夫







 
[PR]
by hidesannno | 2012-10-18 11:38
  

随筆と詩歌
by hidesannno
プロフィールを見る
画像一覧
カテゴリ
全体
未分類
お気に入りブログ
おいしいお店 八百屋ろ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
ブログパーツ
最新の記事
あの夏 この夏
at 2013-07-22 23:42
夢を編む その8  「親和力Ⅱ」
at 2013-06-21 07:00
夢を編むその7  親和力
at 2013-04-29 22:20
夢を編む6
at 2013-02-21 06:36
忘機
at 2012-12-18 03:28
外部リンク
ファン
ブログジャンル
画像一覧