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夢を編む その8  「親和力Ⅱ」
夢を編む その8
              親和力Ⅱ

                                  高橋秀夫

 6月は梅雨。月の暦では水無月。この時期に水の無い月というのはおかしいが神無月の神の無い月と同様「無」は「な」ではなく「の」と意味するらしい。つまり、水の月、神の月が本来の月名という。
 水無月6月は田んぼに水を引き入れる時、山からの水は田を一面水鏡のようにし、山の神は水とともに降りてきて田の神となり、その年の豊穣をもたらしてくれる。だから、この時期の水は大変大事なものなのである。いまでも水口に笹などを飾り、田の神を大事に向かい入れる風習は時々、見かける。
 町中に暮す僕らは暗渠に流れる水に深く感謝することなどないが田んぼに満ちる水を、それを蓄える山林の保全を祈るように見守る農民の気持ちは水口に笹を飾り、どうぞ、おいで下さいと願う信心の様となって現われるのでしょう。それは人が山や川、たくさんの動植物と呼応して暮している本来の姿であるように思います。
 僕たちが井戸の水を汲んで暮していた時代は遠の昔のことだが水がいかに大事なものであるかは思い返す必要があると思います。
 かって、人に限らず生き物は水辺の近くに住み、山を拓き山野から糧を得てくらしていた。そして、集落ができ、人々は力を合わせてあたりの自然からの恩恵で暮していた。さほど、大昔の話ではない、ほんの100年も前のことである。明治時代の国勢調査で見つかった山村も少なくないという。
 人が豊かに暮す風土が現代とは全くちがっていた証拠なんでしょう。
 日本列島を考えれば、つまり、細長く延びた3000キロの大地、風さえ越えない山岳、血脈のように流れる河川。そして。平野が広がり海に面している。何とも豊かな風土であるか。賢明な社会学者や経済学者がいて、この風土にあいまった人口のキャパや資源の保全と維持を示していたらもしかして、いまでも理想郷として人々は暮していたかもしれない。
 
 梅雨時は店では恒例の梅の注文の時期でもある。
しかし、今年は梅雨入り宣言がいつもよりずいぶんと早かった。誰しもこれは長雨かと心配していたが、どっこい、一向に雨は降らない。それどころか晴天続きである、家の紫陽花も何とも絵にならないままだ。だいたいこの時期はにび色の低い空を見上げてはトホトホとため息をついて静かな雨音に時の移ろいを「待つ」ひと時なのです。それが、このように真夏のような青空が続くと今度は
空梅雨、水不足、旱魃・・・苗は、夏野菜は大丈夫かと胸の内は暗雲が広がってくる。
 店で梅の話をしながら「温暖化?」「季節感がつかめんね」と話題は現代の情勢から戸惑いの様相でもちきりだ。季節感って言ったってトマトはすっかり一年中出まわっているし、ちょっと前のトマト神話と呼んだ初夏の新鮮な感動は薄れている。トマト神話というのは店を始めた頃は品数もたいして多くなく、6月と言えば完熟の渥美土百姓のトマトがどっさと並ぶ時期だった。売れる量などしれたもの、しかし、毎日毎日どっさ、どっさと入荷する。
 当時、まわりでは青い硬そうなトマトが並ぶ中、店のトマトは木なりの完熟。まっかっかのトマト。
渥美のトマト畑はぎりぎりまで水をきり、枯れそうと見えたときにジャーと水をまく。トマトはからからの蛇のように一気にその水をゴクゴクと飲むように、美味しそうに吸収する。そして、見違えるほどに凛として赤く染め上がる。考えただけでまずいわけがない。いのちの営みの正に奇跡なのです。
 それが、毎日毎日どっさどっさとくる。店といってもまだまだ新参もん。お客もどっさどっさと来てくれたらいいがそうならない。手分けしてあちこちに戸板をもって路上販売にでかけた。
 妙な風体が売るトマト。なかなか苦戦が続くが妙な格好のもんやが一生懸命な笑顔の口上とプリッとした赤いトマトはやはり、パワーがある。おそるおそるだが買ってくれる人がでてきた。
 次の日も戸板にトマトを並べ。惜しみなく声を張り上げた。
「このトマト最高!」と昨日のお客さんがきてくれた。友達も一緒だ。話ははずみ、行きかう人らが立ち止まって、気がつくと輪ができている。飛ぶようにとはいかないが売れた。それは、僕らには信じられないことで、ものすごく嬉しかったのを覚えている。
 これをきっかけに店にお客さんがたくさん来てくれて「美味しいトマトのあるお店」としてこの町にデビューしたのである。
 畑の奇跡が店の中でも起こったのである。戦術でも戦略でもない。
店に日に日に積み重なっていくトマトを前にどうにかしょう、何とかしょう・・と思い立っての行動でした。ただ、こんな方法しか思いつかなかった。また、ことさらに無農薬を強調したわけでもないし、市場流通を批判してこのトマトが本物、みたいなことを言ったわけでもない。ただただ必死になって声を張り上げただけだった。だって、大きな声で言わないと誰も見向きもしないからね。
それと、買ってくれたらびっくりさせるほど喜んだな。きっと、そんな単純で素朴なとこが良かったのかもしれないな。
 これを、僕たちは「トマト神話」と名付けた。

 あれから、30年がたった。トマト神話の主役トマトはどこでも真っ赤なトマトで見分けもつかないほどずらりと並んでいる。あの時、めずらしいものはもうすっかり当たり前になって、看板も口上も飽きるほどに、「無農薬」「自然」「本物」「エコ」「オーガニック」とどこでも見かけるようになった。
 僕たちがかっての農法、つまり、農薬や化学肥料に頼らず、手数をかけて育てた野菜を手渡す仕事をはじめた時。なんて非経済的で虫食いの不細工なものを誰が食べるってか、とやんやん言われたものだ。新しいものは海を越えて外国からどんどん安く入ってくる。
「何で?」と何度も聞かれた。明確な答えはなかった。とにかく、自然の産物と、農家も言うほどに「不」自然ではないことを考えた。さらに、金がないものだから形状や見た目などに使う金銭的な余裕がないというのも欲を出さずに済んだ理由かもしれない。
 また、決して憂鬱なる果てに向かった土への逃避でもない。むしろ、積極的に土の匂いのする仕事として選んでいった。そして、向こう見ずで計算高くなく、楽しい仕事として胸を張って毎日を送った。

 慣れというものは怖いものである。
当時は袋もない、包装は新聞紙。野菜はバラで量り売り。野菜も曲がったもの小さいもの、でかいもの。畑の状態そのままを並べた。均一に出来るもの等ない。ちょうどいいもの、かたち、大きさなど畑を見ないレシピ集が作ったもの。台所がまさにうまさと美の舞台なのである。そして、楽しい場なのである。
 慣れは先入観をつくり、見慣れないものを敬遠し、時には排除さえする。生き物は何一つ同じものなどないし、それぞれみんな違って当たり前なのです。その自然の原理というか摂理をちゃんと知ることですね。自分の目と耳と手でね。

 吉野から梅が届いた。
30年来の付き合いの萩本さんがコンテナ10杯のきれいな梅を持ってきてくれた。かって、林業で栄えた西吉野村。30度近くある急峻の山肌に立っている木からひとつひとつ手で摘んだ南高梅。
空梅雨と言われていた空から堰をきったような、まるで篠突く雨のようにやってきた梅雨の雨の中
青々とした梅を届けてくれた。
 ことさらに、梅が好きというわけでもないが、また身体にいいから、日本の伝統食だからというこてでもないが、ここ30年欠かさず梅干しは仕込んでいる。とにかく、水無月6月、梅を漬けないとどうにも落ち着かないし、漬けないと6月という梅雨がなくなってしまうような気になるのである。
 これも何かの原理というか摂理というか、ただ、そうすることになっているという感じなのです。夏を越す風物詩ですかね。風鈴を軒先につるすのもこの時期ですね。

 政府は英語教育を強調しています。世界を股にかけて語学堪能なビジネスマンを育て外貨を稼ぐグローバル人材を増やすというのか。彼らは美しい日本語を忘れないといいが・・・。
 篠突く雨で空梅雨を返上した梅雨の日。梅を置いて帰る萩本夫婦を見送る空はいつの間にか静かな五月雨となっている。一億みんなの軒先に風鈴を吊るしてチリリンと夏を向かえ、風を待つ。
そしたら、原発一基いらないな。
 そんな精神風土、文化を大切にしたいですね。

 生き物でもあるぼく達人間は力ずくで道を作ったり、他者を蹴落として明日にむかってもちっとも面白くない生き方なんだって気付かないとね。

 最後に自然の摂理、原理をきれいな日本語で表現したナナオ・サカキの詩を紹介してお終いにしましょうか。

         男は いつも 女と
       
         女は いつも 花と

         花は いつも 鳥と

         鳥は いつも 風と

         風は いつも 雲と

         雲は いつも 空と

         空は いつも お前と

 次回は山尾三省さんと鶴田静さんの宮沢賢治像を考えてみようとおもってます。
鶴田静さんは「宮沢賢治の菜食思想」という本を出したばかりで、山尾三省さんは「野の道~宮沢賢治随想」という本を書いています。お二人の賢治像を見ながら親和力のことを考えてみましょう。


       高橋 秀夫     五月雨の梅を前に
 
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by hidesannno | 2013-06-21 07:00
  

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