遊びをせんとやうまれけむ
「遊びをせんとや生まれけむ・・」

 遊園地がなくなり、このあたりにはプールさえもなくなってしまった。
子供たちはさほど気にも苦にもせず、夕暮れともなれば白いビルの塾に消えてゆく。
 僕らの子供の頃、夏といえばプールだった。何人かと自転車を連ねて、半時間ほ
どの川辺の市民プールに通った。朝から晩までまるまる一日だ。くちびるがむらさき
いろになってカッパのように遊んだ.気になっていた女の子が来ていれば格好つけ
て飛び込んで見せたりしたもんだ。水面に顔を出すと蝉の大合唱とどこまでも青い空
が目に飛び込んできた。
 テレビなどまだ贅沢品の時、力道山を見ようと電器屋の前にはひとだかりができて、
工場帰りの自転車の男たちの油と煙草の匂いが歓声と一緒に暮れていく町角にうず
まいていた。
バスの車掌に一目惚れしていた一番上の兄貴がバスが止まる度にそわそわしていた
のを思い出す。
昭和35年の町角の夕暮れの風景だ。
 プールの帰り道タマラン坂という胸をつくほどの急坂を一気に登りきる、これが皆の
根性調べだ。登りきると道をジグザグにこぎ、林に覆われたキチガイ病院と結核病院
の前は全速力でぬけた。 
 前も後ろもわからない程に日焼けした少年たち。白いランニングシャツと真白い歯
が町の一日の終わりを告げる。
 青空ばかりをうつした少年たちの瞳。
その瞳の遠い先で原子力の火が点滅したのを少年たちは知る由も無かった。
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by hidesannno | 2012-02-20 22:32

随筆と詩歌
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